自宅の売却を考えるとき、購入価格より高く売れるかだけを見ても判断はつかない。比べるべきは、いま売った場合に手元に残る現金と、保有を続けた場合に負担する費用・将来の売却条件だ。住み続ける、空き家にする、貸し出す、では比較する数字も変わる。
まず、いま売った場合の「手取り」を出す
同じ建物・近隣の成約事例を集め、面積だけでなく階数、方角、築年、管理状態、売出時期の違いを調整して価格帯を置く。国土交通省の不動産情報ライブラリは取引価格・成約価格の確認に使えるが、掲載事例は個々の住戸の査定額ではない。売出価格も成約価格とは分ける。
売却見込額から、仲介手数料などの取引費用、ローン残債、適用される場合の税負担を引く。この「現金の手取り」と税務上の「譲渡所得」は別の計算だ。譲渡所得は原則として譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引き、建物の取得費は減価償却費相当額を反映する。ローン残高を取得費として引く計算ではない。
例えば、売却見込額1億2,000万円、取引費用等400万円、返済するローン7,000万円なら、税引前の手元資金の概算は4,600万円。税額を出すには、購入時の資料、土地・建物の内訳、所有・居住の履歴を別に確認する必要がある。これは市場価格の予測ではなく計算の例だ。
住み続ける場合は「売らずに済む費用」も入れる
持ち続ければ固定資産税、保険料、マンションの管理費・修繕積立金、設備更新費がかかる。ローン元利返済を含む現金支出を出し、比較時点の残債も別に把握する。一方、売れば次の住まいの取得費または賃料が生じる。現金収支表では、住み続ける自宅に家賃収入を計上しない。住宅として使う価値は、代替住居に必要な費用と生活上の条件で別に評価する。
マンションでは、足元の積立金額だけでなく、長期修繕計画、積立金残高、滞納、将来の増額や大規模工事の予定を確認する。国土交通省は計画的な修繕と適正な積立金額の設定を重視している。保有費用が将来も一定とは置かない。
貸す場合は、別の投資判断になる
転居後に貸す案では、家賃から空室・募集費用、管理、税金、修繕、借入返済を差し引き、年ごとの現金収支を作る。借入返済の元本部分は現金支出だが、不動産所得の必要経費にはならない。返済で残債が減る効果を将来の売却手取りにも反映し、二重に計上しない。住宅ローンのまま賃貸できるかは契約・金融機関の確認が先だ。居住用財産の特例も、売却時期と居住実態などの条件で扱いが変わる。
国税庁は、マイホームの譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例を案内している。売却で生じる税額から3,000万円を直接差し引く制度ではない。以前住んでいた家は、原則として住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るなどの要件がある。住宅ローン控除との併用制限もあり、特例の適用には確定申告が必要だ。「いま売る」と「数年貸してから売る」は税負担が同じとは限らない。適用を前提に価格を決めず、個別の税務確認を行う。
三つのシナリオを同じ時点・同じ期間で比べる
- いま売る:成約価格の幅、費用、残債、税引後手取り、比較期間中の次の住まいの費用。
- 住み続ける:返済を含む現金支出、金利変動、修繕、比較期間末の売却価格と残債の幅。
- 転居して貸す:空室を含む現金収支、融資条件、転居先の費用、期間末の売却手取りと税務。
将来価格を一点で置かず、下振れ時に残債を返せるかを見る。保有継続を選ぶなら「いくらで売れたら判断を見直すか」「何年後に再評価するか」も先に決めておく。売却・購入の仲介と、保有・売却判断の独立評価は目的に応じて相談できる。
参照資料
資料確認日:2026年9月26日。具体的な税額、特例の適用、融資条件は個別の資料に基づき確認する。
